君が思い出になる前に

六月


白いキューブ


あたたかい
というより、少し汗ばむ季節


曇りだらけの富山では
めずらしい澄みきった空
あたらしいみどりが少しこなれてきた


キューブのスピーカーから
出てくる音はスピッツ


この年齢できくスピッツ
せつなくない?


正宗くんは、いい声しているよね


正宗せつねー
昔は似たような曲とか思ってたけど
間違いだね
なにこのせつなさ


正宗くんは、言葉の選び方がきれいだなぁ


たしかに
初めて買ったCDはスピッツだったな


なに買ったの?


"空も飛べるはず"
小学生だった!
りゅうたんは高校生?


そうだねー


"白線流し"ど真ん中?


おれ、そのドラマみてない


わたしもー


何てない会話
ありふれた日常


助手席から見た君は
はなうた最中
時々
声が高いなー!
とか言って出てないキー交じり


君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて


この曲が流れる度に
わたしは静かに君の死を考えた
いつか君は
わたしの思い出になってしまうのだろうか


そんなこと考えて
泣きそうになっているのを
誤魔化すために
せいいっぱい窓の景色を眺めていた


なんでもないドライブ


白いキューブ


もう のることはない