最後の最期

彼の話には当然ながら終わりがある

その間の話も

その後の話も

たくさんある

だけど、わたしは終わりを記す

彼は生きてたけれど

彼は死んだ



終わりの話

一年と三ヶ月経った今より

一ヶ月経った

泣きながら書いた

何にも考えずに書いた

あの時の言葉の方が

やっぱりリアルだから

その時の言葉をここに







2010年10月28日
メガネがお墓に入りました。


メガネがどんどん誰かの思い出になったって

自分の中じゃいつだって
現在進行形だよ

だから忘れないから

一緒にいられないのは
とても寂しいし
すごくつらい
でもあいしてることに変わりはないよ

メガネを好きだ
ていうのが前提で

この先
誰かと愛し愛されになっても

その前にメガネがいるんだ

メガネと最期までいられて幸せで

最期の瞬間まで幸せにしてくれるメガネは
本当にすごいよ


あいしてる


9月13日


朝にメガネママと交代して
16時にメガネの入浴に付き添って
18時にまた家に戻った


仕事を休んで富山に来てくれてる
ひろせママに
寝たいよーと弱音を吐き
体力の限界と連日の不眠続きで
少し風邪っぽいなぁ
今日は休もうかなぁ
と思いつつ23時に病院へ


メガネは呼吸が荒く
息をするたびに
うー うー
と唸り声


目はずっと白目を剥いていて
苦しくて仕方なさそう


メガネママから
とうとう氷を食べることも出来なくなった
と聞きバトンタッチ


1人で
うー うー
言っているのは
ツライし寂しいだろうから
メガネが言うたびに
大丈夫だよ 大丈夫だよ
と合いの手


手を握り締め
りゅうたん大丈夫だよ
て、ずっと言っていた


あいしてるよ しあわせだよ
て、自然に言葉が出てきて
その時は最期なんて全然考えてなくて
ただ一緒にいられることだけが嬉しくて
メガネの手を握られること
そばにいられること
一番近くにいられること
苦しくてツラくて痛くて意識も朦朧だけど
それでもメガネの不安やツラさを軽減できて
1人じゃないよ
てことが意思表示できるしあわせがあった


25時くらいに身体を左側に倒し始めて
立ち上がりたいのか
体勢を変えたいのかが判らず
身体を支えることしか出来なかったけど
メガネは少し満足したみたいで
(相変わらず白目なので表情は読めない)


また
うー うー
言いながら寝た


あんまりずっと唸ってるから
のどかわくかな?
て思って小さい氷で口を湿らせようとしたら
口をあけたので
そのまま氷を放り込んだら
ガリガリ食べた


ああ、まだ大丈夫なんだな
て安心


そんなことを26時くらいまで続けて
と時々ひろせもうつらうつら


ぱっと起きると
うー うー
言っているので
大丈夫だよ あいしてるよ そばにいるよ
を繰り返し繰り返し


気付いたら朝の5時で
看護師さんが目の前に
ああ、寝ちゃった
とぼぉっと考えてたら
「ご家族を直ぐに呼んでください」


ふらふらの頭で良く判らず
待合室に行き
メガネママに電話


病室を出るとき
メガネは呼吸器を装着させられていた
メガネママに電話して
自分の中でやっと状況がクリアになって
メガネのそばに戻る


うー うー
も、もう言わなくて
ぜぇ ぜぇ ぜぇ
とすごく苦しそうに呼吸をしていた


りゅうたん もう近づいているの?
て、あんがい冷静に受け止めて

あいしてるよ しあわせだよ ありがとう
て手を握り締め、頭をなでた

もうすぐお父さんもお母さんも弟くんも来るよ
大丈夫だよ
1人じゃないよ
そばにいるよ
ずっとずっと話しかけてた


ときおり息が止まりそうになるけど
なんとかがんばって息をして
お父さんとお母さんと弟くんが来て
私はメガネの一番そばから離れなきゃなって思って
席を立って
お母さんと交代したら
そばにいてあげて
と言われたので
一番そばにいた


左手はお父さんが握って
右手はお母さんが握って
弟くんは足元をさすって
私は顔を撫でてていた


みんな、泣き崩れてたから
なにか伝えなくちゃ
と思って
ずっと話しかけていた


りゅうたん ありがとう
りゅうたんの家族は幸せだよ
りゅうたんのおかげでみんな幸せだよ
いっぱいいっぱい幸せをありがとう
あいしてるよ
みんな、りゅうたんをあいしてるよ


て、もう何も考えずに自然に出てきた
メガネは涙を流してた
「聞こえてるんですよ」
て看護師さんは言ってくれた


脳症になってから
自分の意思表示が全く出来なかったメガネの
最期の意思表示


何回か涙をこぼしたあと
メガネは息をひきとりました


7時3分

主治医の死亡確認が必要なので
病室で待つことに


あっけなく
あっけなくなのかな
判らないけど
メガネはさっきまで必死に生きていて
でも生きてなくて
良く判らなくて
息はしてないけど
メガネの身体はメガネであって
もう動かないなんて考えられなくて
だって
さっきまで泣いてたんだよ
うそだよ


悲しみの度合いが大きすぎて良く判らなかった


7時30分

主治医の先生が死亡確認をとり
メガネは死んだ


処置やら何やらで
一回病室を出ることに


その間なにかしないと
とてもじゃないけど立っていられなかったので
出来る限りの人に電話
通勤時間ということもあり
なかなか連絡がとれない人もいたけれど
みんな通勤中にもかかわらず泣いてくれた


看護師さんに呼ばれ
服を着替えて
軽く顔を整えたら
メガネはとてもキレイに笑っていた


生前に
オレの死に顔、絶対に撮るなよ!
君は平気でそういうことしそうだから・・・・
て言われてた通り
誰もいなくなった隙に
最期の2ショット撮ったよ
泣き顔すぎてヤバイけど
メガネはキレイだよ
とっても とっても キレイだよ


病室の整理をして
荷物を全部出して
メガネがお家に帰る準備


お父さんが
一緒に帰って
と言ってくれたので
1人しか同乗できない車に乗って
メガネと帰った
ずっと一緒だった


お家に帰って
お家で寝て
メガネの親戚一同が集まり始めたので
2階のメガネの部屋に


いざ、というときに昔作った
東京友達連絡リスト
で片っ端に電話


100件近く電話したけどまだお昼
いっぱいの人から連絡が来た
疲れて少しご飯をつまんで
ひろせママが喪服やら着替え持ってきてくれて
親戚に挨拶して
葬儀社と打ち合わせして
夜が来た


メガネ家のご好意により
メガネの隣で寝ることに


さすがに添い寝は不謹慎だよね
と思い隣でおとなしくしてたけど
もう、最期なんだよな
と思ったら添い寝してしまった


いつもどおりの腕枕で
いつもどおりの高さで
いつもどおり手を握って
当たり前のようにキスをした

見上げたらメガネの顔があって
本当にただ寝てるみたいで
でも身体は冷たくて
手は握り返してくれなくて
唇も冷たくて
ぬくもりもなくて
ただ つめたくて かたくて

今でも忘れられない

この先 誰かとキスしたり手をつないだり
メガネを上書きされたって
忘れない
そんな つめたさと かたさ


朝になって
納棺され葬儀会場に行って
お通夜して
告別式をして
霊柩車に乗った

霊柩車に乗る前に
最期にメガネに触れた
最期にメガネの身体に触れたかった
親戚とかじゃなくて
どうしても自分が最期に触りたかった


人目も憚らず
りゅうたん ありがとう あいしてるよ
って言った


火葬されて
メガネの骨はいっぱいあって
本当にいっぱいあって
骨壷にいっぱいだった


もう身体はなくて
つめたくて かたい 身体も
二重で意外とかわいい顔も
チビで短い足も
骨だけが太くてがっちりした肩幅も
ぷっくりした太い指も
すこしあつい唇も
すきっぱな前歯も
さらさらした髪の毛も
いつも近くにいたあの笑顔も
においも 声も やさしさも
ぜんぶ ぜんぶ なくなった
ちっちゃい骨になった
でも重たかった

いっぱい いっぱい あいしてた
いまでも ずっと あいしてる

メガネがいない現実を
みんな普通に過ごしているように
自分も過ごしているけれど
でもメガネがいない現実を
受け入れてるわけではない


メガネはどこかで生きていて
またいつかあえて
またいつもみたいにわらって
そんな夢みたいなことがないのは判ってる

でも頭で判っていても
どうしようもないくらいメガネは自分の一部だった
メガネが全てとは言わない
メガネなしでは生きていけない
とも言わない
メガネがいなくても
自分は生きていくし
誰かを好きになったり別れたり
笑ったり遊んだり
みんなと同じように過ごすよ

でもやっぱり悲しいのはいけないことかな
たまには泣いたりしちゃいけないのかな
1人で抱えきれないときは誰かに頼っちゃダメなのかな
世の中でツライのは自分だけじゃないけれど
人前でいつでも笑顔で明るく過ごせるほど
うまく出来ちゃいないんだ


メガネは最後の最期まで
幸せにしてくれた
このうえないものを自分はもらった
これ以上なんてないよ

それを
引きずってるとか
後ろ向きだとか
めんどくさいとか
言われるのは
もう慣れたけど
さらさら なおす気はないよ

メガネをあいしてる
いまはそれが自分の誇り


一緒に生活してたときは
あいしてる
なんて言ってなかったのにね
バカだな 自分は


末期がんだと判ってメガネと付き合ったこと
仕事もやめて一緒に富山についていったこと
メガネの看病をしたこと
なにもかも
全く後悔はしていない
選択は間違ってないと言えるよ


あいしてる。

ひろせより愛をこめて。