最初のさいしょ

初めて彼に会ったのは

わたしが20で彼が25の時だった。

大学を中退して、なんとなく始めたバイト先に彼はいた。

いつ、どこで、初めにどんな会話をしたかは覚えてない。

いっぱいいた職場の先輩の1人だった。

当時のわたしからしたら

(今だって初めて会えばそう思うかもしれない)

さえない、背の低い、いかにもマジメなメガネの男の人だった。

仲が良いバイト仲間からメガネと呼ばれていた。

(わたしたち年下組は○○さん、と呼んでいた)

困ったことがあったら

さりげなく 本当にさりげなく

直ぐに助けてくれる職場の頼れる先輩だった。

(ラッピングはあまりお上手ではなかった)

何を最初に話したかは覚えてないけど

面と向かって話したのは

多分、12階の休憩室。

くたびれた木のいびつなベンチに

申し訳ない程度の中身が飛ひ出しかけたビニールクッション。

ブラウン管のテレビ。

彼が座ってるのが見えたので隣に座った。

(今、考えるとたいして話したこともないのに良く隣に座ったものだ)

その時、わたしは彼の名前を堂々と間違えたのだが

彼は否定もせず、話を続けてくれた。

直ぐに気づいたのだが

謝ったのは、だいぶ先。

何年もあとの話。

それもきちんと謝ったかは

今やあやふや。

最初のさいしょすら、あやふや。

なんとなく 初めは こんな感じだった。