わたしはいつも彼が死ぬことを考えていた

わたしたちの関係はとても気楽で危うかった

わたしは交際をしていた人がいて
その人と結婚をする約束もしていた

だから彼と真剣に向かい合うこともなく
当時の交際していた人と合わない趣味が
彼とはするりと合い
時間を持て余したり
誰かと食事したい時は
真っ先に彼を呼ぶことがいつしか当たり前になっていた

一緒に朝を迎えたり
戯れにやきもちを妬いたり

そんな、適当で安心な日々が少しでも長く続くと良いな
なんて呑気に甘えていた

彼がわたしの働いていた病院で
末期癌だと判り
緊急手術をして
余命宣告される前に
わたしたちはきちんと付き合うことになった

毎晩、毎晩
おれは本当は何の病気なの?
て、聞かれる度に
腸閉塞だよ
と答えた

(実際に腸閉塞もあったので嘘ではない)

ある日、震えながら
おれは手術で身体障害者になった
と、目を合わさずに伝えられた

(わたしは病院で働いているし)
(彼の状態については彼より知っている)

心の中では
お前の身体はもっと大変なことになってるんだよ
て、ツッコミながら
うん、うん、頷きながら聞いていたけど
彼が震えていることにビックリした

彼が余命宣告を受け
表面上は至って普通だっけれど
わたしは大袈裟に心配をしていた

毎日、お見舞いに行き
(皆勤賞だね、て言われた)
一緒にゆっくり散歩し
階段を歩く時は、じゃんけんをしながら歩いた
彼はじゃんけんが弱くて
わたしがパーやチョキで連勝すると
直ぐに姿が見えなくなった
本当にじゃんけんが弱かった

ゲームもした
マリオカートは最終的に
わたしがはまってしまい圧勝だった

入院中にスラムダンクを貸し
(彼の世代なら読んでいるのは当たり前だと思っていたら)
(暴力シーンが苦手な為、読んでないとのこと)
最初は嫌かもしれないけど
少しずつ不良シーン減るから読んでみて
と説得して読み終わったあとに
どのシーンが良かったか、
どのキャラが好きか、を言い合ったら
彼は意外にもゴリが好きだと答えた
ミッチーのシーンは?泣いた?
て、聞いたら
あんまり…
とのことで
ゴリが周りに理解されず
それでも真面目にバスケを続ける姿に泣いた
と、言われ わたしはビックリして笑ってしまった

そんな彼が好きだな
て、今でも思う